ダーウィンの「進化論」をご存知でしょうか。
ダーウィンの進化論は、全ての生物種が共通の祖先から長い時間を経て、
「自然選択(自然淘汰)」を通して進化しているというもので、
生物の生存競争の結果、環境に適応できた変異個体が生き残り、
後の世代に受け継がれる中でさらに環境に適するように変化していくと主張したものです。
環境に適応しようとして進化したのではなく、たまたま持って生まれた形質が
環境に合っていたため生き残ったという考え方になります。
ダーウィンの進化論から160年、最先端の科学はより深くより広く、
生き物たちの進化のしくみを明らかにしようとしています。
埼玉大学の豊田正嗣さんは、1匹の虫に葉っぱをかじられたとき植物に何が起きるのか、
高感度実体蛍光顕微鏡世界で初めて映像でとらえることに成功しました。
葉っぱをかじられた瞬間、かじられた葉っぱから信号をとらえ、
そして別の葉からも同じ信号を捉えることができたのです。
さらに、その信号が送られた先で毒物質が作られます。
▼葉をかじる芋虫(イラスト)
植物は虫に食べられると、傷ついた細胞からグルタミン酸を放出します。
これを葉の細胞が受け取ることで信号を伝えるカルシウムイオンが発生。
その信号が細胞から細胞へ伝わって行き、信号を受け取った葉で毒物質が作られるのです。
これらの毒成分は、葉をかじる音あるいは虫の唾液に含まれる化学成分で敵を認識し、
相手に応じて毒成分の種類や量を変えていることも明らかになりました。
驚くべきは、その危険信号は近隣の植物にも伝わることがわかり、かじられていない植物も防御反応を起こします。
周りの植物に影響を及ぼす例は他にもあり、山火事の時に燃えた木はカリキンという物質を放出し、
その信号によって眠っていた草木の種が一斉に発芽します。
また、アルバータ大学のジャスティン・カーストさんたちは、
根の周りを菌糸が取り囲む様子を捉え、世界中の植物の80%が菌と共存していることを発見しました。
菌糸は根の内部にまで入り込み、一体化しながら土の中にびっしりと張り巡らされていきます。
植物は窒素やリンなどの栄養を根から得ていますが、
根が栄養を取り込む能力は弱いため、菌が土から吸収し植物へと送り込んでいます。
代わりに植物は、光合成で得た養分を菌へと分け共存関係を築いています。
その菌糸は、少なくとも数十メートル成長することが分かってきました。
そして菌同士が繋がり合うことで森中の木々をつないでいることが突き止められたのです。
▼根と菌糸がつなぐ森のネットワーク
巨木の下の幼木は、暗い日陰でどうして生きる養分を得られるのか。
それは大きな木から菌を通して養分が与えられていたからだということが解明されました。
さらに常緑樹と落葉樹は双方向に養分をやりとりしていることも明らかになりました。
夏は光合成が活発な落葉樹から常緑樹へ、落葉樹の葉がない時期は常緑樹から落葉樹へ。
▼巨木の下の幼木の目線
今まで植物は競い合って光や栄養分の取り合いをしていると思われていましたが、
実際は強い協力関係を築いて共存の世界を作り上げていたのです。
2015年より国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を遥か何千年も前から作り上げていた植物。
地球の陸上生物の総重量は470ギガトン。
そのうち人間・すべての動物・微生物の重さを合わせてもたったの4.5%、残るはすべて植物です。
植物を動かず鈍感な生き物だと下に見ず、永らく地球と共存してきた先輩として、
私たち人間も生き方を改める時なのかもしれません。
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