
6月10日は「てっぱん団らんの日」。
2005年のこの日に食育基本法が成立したことに基づき、
鉄板・ホットプレートを囲む団らんを推奨する食品メーカーが2011年に制定した記念日です。
鉄板といえば、金属加工のコバセイ。
実は私たちも一度、調理用鉄板に本気で挑んだことがありました。
時は2022年。世界はまだまだコロナ禍の渦中にあり、
人々は密を避けながらも「外へ出たい」という欲求を抱えていました。
そんな時代の空気の中で急速に広まったのが、ソロキャンプというひとり時間です。
専用アイテムの需要が高まるなか、私たちは考えました。
「鉄板なら、私たちにも作れるのではないか」と。
製造したのは、市販品をはるかに上回る厚みの鉄板です。
厚い鉄板は熱の蓄積性が高く、食材を乗せた瞬間の温度低下を抑え、内部まで均一に火を通すことができます。
加熱や急冷による歪みも生じにくく、長期間にわたって安定した焼き上がりを約束する——
まさに、金属加工を生業とする私たちが作るべき一枚でした。
発起人は、キャンプを愛する一人の社員。
製造部に頼み込み、板端材からその鉄板を切り出しました。
怪我のないよう周囲の鋭角を丁寧に処理し、油を落とすための溝を周囲に掘った試作品は、
スチール特有の銀の光を放ち、どう見ても「現場の部品」にしか見えませんでした。
表面加工はまだこれからかと思っていた矢先、発起人はその鉄板をさっさと持ち帰ってしまいました。
数日後。
「検証するよ!」と意気揚々と現れた彼の手には、真っ黒に変貌した鉄板がありました。
家で鉄板をどうしたのかと聞くと、一言。「育てた」。
空焼きして煙が立つまで熱し、多めの油とくず野菜を炒める。それが鉄板の焼き入れです。
しかし彼はそこで止まらず、さらに真っ黒になるまで繰り返し焼き入れを行った。
その手間と愛情の結晶が、「育った鉄板」だったのです。

検証当日。用意されたのはコバセイ製の鉄板と、市販の鉄板。
大きさはほぼ同じ、しかし厚みは約3倍の差があります。
発起人はガスコンロを持ち込み、昼休みの駐車場で二枚の鉄板を火にかけました。
やがて漂い始めた肉の焼ける匂いが周囲に広がっていきます。

気づけば人だかりができ、食堂からごはんを持参して匂いを嗅ぎながら食べている者まで現れました。
鉄板を削り出した、製造部員本人でした。

十分に焼けたところで、A5ランクの霜降り肉が一口ずつ振る舞われました。
どちらも極上の肉、どちらも美味しい。しかし違いは、口に入れた後に現れました。
コバセイ製の鉄板で焼いた肉は、時間が経っても温かく、やわらかな食感を保ち続けていました。
市販品の鉄板では、その温もりが早々に失われていったのです。
改良点も見えてきました。油の溝をもう少し深くすれば、油切れがよくなる。
次の試作への手応えが、確かにありました。

しかし現実は、私たちの前に立ちはだかりました。
調理器具の製造販売には、厳格な衛生管理と各種申請が必要です。
通常業務の傍らで進められる規模ではなく、プロジェクトはそこで幕を閉じることになりました。
もしあの鉄板が世に出ていたなら
航空機部品を手がけるメーカーが作った鉄板として、
キャンプ地で空を見上げながら肉を焼くソロキャンパーが、どこかにいたかもしれません。
てっぱん団らんの日に贈る、コバセイ団らんのある日の挑戦でした。